「スリザリンはだめ…!スリザリンはイヤだ…!」
「ふむ。ならばハリー、お前は…」
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「グリフィンド…じゃなくってスリザリン!」
と言われたら最後、どれだけ抵抗してもハリーはスリザリン寮に連れていかれてしまったでしょう。
あなたが、
「勉強はイヤだ…勉強はイヤだ…勉強はイヤだ…勉強はイヤだ…」
と何度つぶやいたとしても、試験という名の組み分け帽子はあなたの訴えを聞いてくれません(ハリーポッターは、運良く願いを聞き入れてもらえましたが)。
イヤだろうが何だろうが、勉強はしなくっちゃいけないもの。
テストの日時はすでに決まっているし、それに合格できなければもっと大変なことになるのはなんとなく分かる…けど。
「とにかく、今は勉強したくないんだ!」
って思うときも、たまにはありますよね?
人間だもの、どうしたってヤル気が出ないときはある。
ということで、
勉強のヤル気が出ないときに読むといいかもしれない本
を、今回は紹介してみたいと思います。
それも、マンガや小説みたいな娯楽ではなく、れっきとした単行本。
普段あまり本を読まないという人もぜひ手にとってみてほしい、勉強したくない!という気持ちを落ち着かせてくれる本です。
勉強というテーマに限らず「人生訓」としても読める3冊の本をチョイスしましたので、一度読んでみるときっといろんな発見があると思います。
学生ではなくサラリーマンに向けて書かれた本も中にはありますが、中高生でも十分に読めるように分かりやすく書かれている本ばかりなので、安心して読んでみてくださいね。
それでは、1冊ずつ順番に紹介してきましょう。
勉強のヤル気が出る本 1冊目 『天才の時間』 竹内薫
参照:http://kaoru.to/profile.html
1冊目は、竹内薫さんの『天才の時間』です。
竹内薫さんは、サイエンスライター。
最先端の科学理論や科学史の変遷などを、とても分かりやすく親しみやすい文章で書いてくれる作家です。
『天才の時間』というタイトルですが、
歴史に名を残してきた天才たちの特徴として「休暇」に注目した
というのが、この本のユニークポイントと言えるでしょう。
洋の東西を問わず、多くの天才たちは素晴らしい作品や偉大な業績を残す前に「とにかく熱中する時間」をとっていたという事実が紹介されています。
竹内さんは、この「熱中タイム」を「雑事から解放される時間=休暇」と位置付けているわけです。
脇目もふれず、一心不乱に研究や作品作りに取り組めるような時間。
雑念などから自分を遠ざけ、目の前のテーマだけに集中できる時間。
前回の記事で「勉強に集中する方法」について紹介しましたが、たとえ歴史に名を残すような天才であっても片手間に何かを成し遂げるなんてことはできないんだということが分かりますね。
ちょっと、本文から引用してみましょう。
「集中力」と「持続力」が、この本のキーワードでもあるのですが、二〇ヶ月という長い「時間」に自分の本当にやりたいことに全エネルギーを集中させられる態勢があったからこそ、この業績は生まれたのだと思います。大学というアカデミックな環境から、一時的にですが完全に隔離されていたからこそ、偉大な業績を残したことは、非常におもしろい。ニュートンの場合は、この時期がワインでいう「樽の中の熟成期」にあたっているのです。
『天才の時間』竹内薫著 NTT出版 p.16
万有引力の法則を発見したニュートンの場合、彼が通っていたトリニティカレッジのあるケンブリッジ大学がペストの流行で閉鎖され、田舎に帰っていた20ヶ月の間が「天才の時間」です。
この20ヶ月の間に、ニュートンは力学や微分積分学、光学といったとても大きな分野の研究をたった1人で完成させたと言われています。
並々ならぬ情熱と集中力、そして「じっくりと研究テーマに向き合うだけの時間」があったからこそ成し遂げられた業績なんでしょうね。
もし、
「大学が休講!?ヨッシャー、あの娘のところに遊びに行くぞー!」
なんてことをニュートンが考えていたら、万有引力の発見はあと100年ぐらい遅れていたかもしれません。
本書で取り上げられている天才たちは、ニュートン、アインシュタイン、ホーキング、ダーウィン、ラマヌジャン、ペレルマン、エッシャー、カント、ヴィトゲンシュタイン、ユング、宮沢賢治、鈴木光司、北野武の合計13人。
業界も実績もそれぞれの、非常に広い範囲の天才たちが取り上げられています。
天才の共通点として竹内さんは「休暇」に注目されていますが、
自由気ままに好きなことをやっていた
というのも、どうやら1つの共通点と言えるのでは?という気がしますね。
大切なのは、勉強の先に何を見据えるのか?ということです。
学生である以上、勉強はどうしてもしなくちゃいけないもの。
であれば、その勉強に「自分のやりたいこと」をいかにうまく結びつけるかを考えてみましょう。
将来やりたいことに熱中するため、今は少し勉強を頑張ってみる。
その気持ちが、勉強をうまく進めるための原動力になっていくはずです。
勉強のヤル気が出る本 2冊目 『学問のすすめ』 福澤諭吉
参照:wikipedia
天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずと云えり。
いわずと知れた、福澤諭吉の『学問のすすめ』ですね。
しかし、名前は知っているけどちゃんと中身を読んだことは一度もない…という人は、案外多いのではないでしょうか?
『学問のすすめ』は、それこそ読めば読むほど新たな気づきや発見がザクザクと出てくる、金をいくらでも掘り出すことができるいわば無限鉱脈みたいな書物です。
特に、
「学びて富み、富て学ぶ」
という言葉や、
「一身独立して一国独立する」
というメッセージなど、今読んでもなるほど確かに…!と思えることがページをめくるたびに出てきます。
机上の学問ではなく「実学(生活の実態に密着した学問)」を身につけることを福澤諭吉はすすめていたわけですが、そういう主張の一切合切をあえて一言でまとめるとすれば、
勉強しないと、恥の多い人間になる
ということに尽きるのではないでしょうか。
『学問のすすめ』の中で福澤諭吉が強く主張をしているのは、
「勉強すると、こんなイイことがありますよ」
という部分というよりも、むしろ、
「勉強しないと、こんなヒドい人間になりますよ」
という危機感にあふれたメッセージ。
そういうテーマの話になると語気の調子が明らかに激しくなるので、なんとなく分かると思います。
察するに、勉強(学問)に励まずのんべんだらりと過ごしているだけの人に対し、よほど福澤諭吉はうんざりさせられていたんでしょうね。
そういうダラダラとした生活をする人間を戒めつつ、
「自由には義務が伴う」
「安易な道を選ばす、志は高く持て」
というような、学問する者が抱いておくべき哲学についてもしっかりと解説しています。
立身出世が人生の大きな目標とされていた当時。
しかし、強欲に自分の利益だけを追求して生きるのは「恥の多い生き方」だと、福澤諭吉はときにかなり激しい口調でしたためているわけです。
外国からの脅威に屈することなく、日本人としての誇りを胸に生きる人になってほしいという願いを込めて世に放たれた『学問のすすめ』。
時代が変わった今なお読み継がれているのは、それなりに理由があるわけです。
現代の、特に若者にとっては一読の価値がある本だと思います。
原文は文語体(昔ながらの言葉遣い)なので、少し読みにくいという場合は、『声に出して読みたい日本語』などの著者として知られる明治大学教授・斎藤孝さんが現代語訳を担当されたちくま新書版がおすすめです。
ちなみに、この『学問のすすめ』。
福澤諭吉の故郷の中津に学校が開かれた際、
「学問の目的って、一体なんなのさ?」
という疑問に対する答えとして福澤諭吉が書いた小冊子を、
「こんな素晴らしい本は、絶対に広く世間に知らせた方がいい!」
と中津の人が助言したことで世に広まったのだとか。
中津の人、Good Job!
勉強のヤル気が出る本 3冊目 『仕事の報酬とは何か』 田坂広志
「勉強の目的は、テストに合格すること」
「仕事の目的は、お金を稼ぐこと」
…そう感じているあなたは、おそらくこの本を読むとかなりビックリすると思います。
なぜなら、それはあまりにも「もったいない価値観」だと気がつくから。
著者の田坂広志さんは多摩大学の教授であり、これからの時代に経営者やリーダーに求められる「変革の知性」について学ぶ塾(田坂塾)を経営されている方です。
『仕事の報酬とは何か』というタイトルが示している通り、この本は(おそらくですけど)社会に出たばかりでまだ右も左も分からない若者や、
「俺って、この仕事に向いてるのかな…」
という悩みを抱えはじめた社会人に向けて書かれたものだと思います。
しかし、社会人だけでなく、
「勉強したくない!」
と感じている受験生が読んでも、きっとこの本はいろんな気づきを与えてくれる。
そんな気がするのです。
田坂さんは、仕事の報酬には2つの種類があると主張しています。
それは、「目に見える報酬」と「目に見えない報酬」。
「目に見える報酬」とは、毎月のお給料や昇進によって変わる肩書きなど、文字通り「これが、俺の仕事の報酬だ!」と指をさして確認できるもの(肩書きそのものを指さすことはできませんが、例えば肩書きが書かれた名刺を示すことはできますよね)。
一方、「目に見えない報酬」として具体的に挙げられているのは、
【1.能力】と【2.仕事】と【3.成長】
の3つです。
そして、この3つは誰かに与えられるものではなく、自ら求めることで得られる特別な報酬であり、非常に価値が高いものであると主張しています。
仕事の報酬として仕事が挙げられているのは、とても面白いですよね。
仕事を続けていれば、それなりに給料はもらえるかもしれない。
しかし、目先の報酬だけではなく「自分の成長」にフォーカスできたとき、仕事の喜びは何倍にもなるというのが田坂さんの意見です。
自分の成長にフォーカスし、素晴らしい仕事をしている人たちの例として田坂さんが紹介しているのは、アメリカの技術系シンクタンクで働く人たちの姿です。
ちょっと長いですが、本書より引用してみましょう。
「たしかに、彼らは、非常に仕事が速い。わずか数日間で、想像を絶する膨大な仕事をする。しかし、それにもかかわらず、なぜか、夕方は早く帰る。早く帰って、家族と楽しく夕食をとる。それを見ていて、私は、最初、彼らが、非常に才能に恵まれた人々であると思っていました。しかし、ある日、気がつきました。彼らは、誰よりも長い時間、働いている。たしかに、彼らは、家族を大切にするために、夕方には早く帰る。しかし、忙しいときは、睡眠時間を削り、夜中の二時から研究所に来て仕事をしている。そして、たしかに彼らは、人並み外れた集中力がある。しかし、彼らは、灼熱の真夏日においても、毎日、炎天下でのジョギングを自らに課し、体を鍛え続けている。最も高度な知的活動は、最も強靭な肉体に支えられている。そのことを、彼らは黙々と実践していた。」
『仕事の報酬とは何か』田坂広志著 PHP研究所 p.40-p.42
(※文庫版ではなく、単行本版から引用しています)
こういう生き方をする人たちを田坂さんは「プロフェッショナル」と呼び、ボーナスや給与という目に見える報酬とは一線を画す「失われぬ報酬」を追い求めている人たちであると分析しています。
給与として支払われたお金は、使えばなくなってしまいます。
しかし、自分が成長したという事実が失われることはありません。
…では、勉強はどうでしょう?
勉強したことは、失われるのでしょうか?
それとも、失われずに残り続けるのでしょうか?
本書の第九話に「決して失われぬ報酬」という章があります。
ここで問われているのは、私たちの中にある常識について。
それは、
仕事は苦役であり、その苦役の代価として報酬があるという思い込み
についてです。
田坂さんは、これを「大きな落とし穴」という言葉で表現しています。
なぜなら、報酬を「仕事の代価」として考えている限り、人は「仕事の中に喜びがあり、報酬がある」ということに気がつけないからです。
成績アップは、苦しい勉強の対価でしかない。
…こう思ってしまうと、勉強そのものに喜びを見出すことはできません。
対価を得るために仕方なく、ツラく苦しい思いを我慢し続ける。
まさに、大きな落とし穴というわけですね。
もう一度、冷静に考えてみる必要があるのかもしれません。
テストの合格は、苦しい勉強の対価なのでしょうか?
勉強の中にこそ、本当の喜びはあるのではないでしょうか?
頭をフルに使って、難しい問題に取り組んでいる。
それ自体が「人間的な成長というかけがえのない報酬」につながっていると思えたとき、勉強に対するネガティブな気持ちに大きな変化が訪れるはずです。
今回のまとめ
「勉強なんてしたくない!」
と感じている方の励みになればと思い、今回の記事は書いてみました。
何かを生み出すためには「休暇(熱中タイム)」が必要だということ。
恥の多い人間にならないために学問に励もうというメッセージ。
そして、勉強すれば確実に成長という「失われない報酬」を手に入れられるという事実。
この3つを再確認できるという意味で、今回紹介した3冊の本は今勉強しなくちゃいけない人たちにとって有意義なメッセージを投げかけてくれているように感じます。
勉強はつまらないし、頭を使うのはしんどいと感じることもあるかもしれません。
しかし、その先にある「学問の面白い部分」や「真の喜び」を知ることができれば、今よりも少しはワクワクしながら勉強できるようになると思います。
この3冊の本は、そういう「未知に触れる面白さ」や「成長の喜び」を知る上では、とても参考になる本です。
あなたが一生懸命に勉強しているこの時期は、まさに「樽の中の熟成期」。
とても美味しいワインに仕上がる日も、そう遠くはないかもしれませんね。