人には物事や経験を記憶する力と、忘れる力の2つの能力があります。この2つの能力は人が生きていくうえで欠かせないものです。
ただ勉強に関してだけ言えば、忘れるという能力は非常にやっかいな能力になります。なぜなら、一生懸命暗記したものでも、時間が経過するとともに、忘れていってしまうからです。
人には『忘れたい記憶』と『忘れたくない記憶』の2つがあります。そして勉強で得た知識や情報というのは後者に該当し、忘れないようにするために、さまざまな暗記法や記憶術を用いて勉強している人も少なくありません。
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「多くの人が実践してきた簡単に覚えられる基本的な記憶術6選」や「暗記が苦手な人でもどんどん記憶できてしまう8つの暗記法」では勉強したことを暗記するための方法を紹介しています。でも実は、ちょっと変わった方法でも勉強したことを暗記することができるのです。
その方法とは「忘れる」を利用した暗記法です。
先ほども言いましたが、人には忘れるという能力があり、勉強する人にとってはとても邪魔な能力と思うかもしれません。でも、発想を変えればこの「忘れる」を利用して、脳により深く記憶を刻み込むことができるのです。
ここでは「忘れる」という仕組みについて解説するとともに、忘れた知識を二度と忘れないものにするための暗記法を紹介します。
なぜ人は忘れるのか?
「効率よく勉強するために知っておくべき記憶のメカニズム」でも紹介しているように、人の記憶には“作業記憶”“短期記憶”“長期記憶”の3種類があります。そして
作業記憶<短期記憶<長期記憶
の順番に忘れにくい記憶となるため、勉強したことをいかに長期記憶として脳に留めておくかが重要になってきます。ただし、正確には3つの記憶とも頭の中から情報が削除されたわけではありません。
例えば脳を1つの部屋に例えた場合、長期記憶は比較的取り出しやすい場所に置かれているため、簡単に思い出すことができます。それに対して短期記憶や作業記憶というのは、お部屋にある押入のさらに奥深くに追いやられてしまっている状態なのです。
「忘れる」とは、脳に蓄積された記憶がどこにあるか認識しておらず、引っ張り出すことができない状態のことを指します。
ではなぜ、脳にインプットした記憶が脳内で行方不明になってしまうのか?その原因の1つは右脳と左脳の働きの違いにあります。
右脳では主に知覚や感性などと言った動物的な働きをしており、反対に左脳は思考や論理などの人間的な働きをしています。
実は忘れる原因は左脳の働きが密接に関係しています。左脳ではパソコンのCPUのように、五感などから入ってきた情報や経験を論理的に分析し、それを出力(思い出す)します。
つまり、頭に記憶したものというのは一度左脳で情報が整理されてから取り出すため、そこで“不要”と脳が判断された記憶は思い出すことができないのです。これら「忘れる」の仕組みです。
ちなみに「実は病気じゃない?自閉症の人が持っている隠れた才能」で紹介しているように自閉症などの脳の発達に障害が持っている人の中で通常ではありえない記憶力を持ったりすることがあります。これは左脳の成長が遅れたことによって記憶の整理ができなくなったことから起こるものと考えられています。
『忘れる→暗記する』のメリット
勉強で暗記したり覚えたりしたことは、左脳によって情報が整理されます。この時、必要だと脳が判断したものは思い出しやすいところ(長期記憶)に置かれますが、そうでないものは脳の奥深くに追いやられます(短期記憶)。
そして、こうした脳の情報整理は毎日行われます。主に人が寝ている時に脳が記憶の整理をするわけですが、この時、日常的に使われるものだったり他の記憶との関連度合いが強いものは、そのまま脳に留まるのですが、使わなくなった記憶はどんどん奥の方に追いやられていきます。
期間としては短期記憶であれば3日~2週間くらいで、覚えたことを思い出すことが難しくなります。これが「忘れる」という状態になります。
ただし、一度暗記したことは頭の中のどこかに眠っています。これが新しい知識を暗記することとの大きな違いです。
例えば英語で、新しい英単語を暗記する時、その単語のスペルや和訳に関する情報は脳のどこにもありません。そのため、新しい記憶をいれるためのスペースが必要になります。
ところが一度暗記したものを覚え直すのは『新しく覚える』のとは違います。正確に言えば脳の中のどこかにある記憶を掘り起こして、再び思い出しやすい状態にする作業となるため、勉強の仕方は同じでも脳の使い方は全く変わってきます。
つまり『暗記する』のではなく『思い出す』のです。
そして、一度思い出した記憶というのは、以前覚えた時よりもより強い印象を脳に与えることになります。「意外と知らない記憶を脳に刷り込ませるまでの5ステップ」でもお話ししているように、記憶に留めるためには強く印象づけることが重要なのですが“忘れたものを思い出す”ことは、脳に強い刺激を与えることになります。
このように、忘れたことを再び暗記しなおすのは、脳にしっかり記憶させるのに適した勉強法といえます。忘れないように暗記することも大切ではありますが、人の記憶というのは地感が経つにつれて忘れていってしまいます。
この「忘れる」を先延ばしにすることはできても、完全になくすことはできません。そこで『忘れる→暗記する』を繰り返し行うことで、記憶の印象を強めていけば、10年経っても20年経っても忘れない記憶とすることができるのです。
忘却を利用して暗記するポイント
勉強したことを忘れることは人として正常なことです。ただ、覚えておくべきことは覚えていないと試験の時に良い結果を残すことはできません。
だからこそ、勉強して覚えたことを思い出すための勉強も必要なのです。
ところが、脳が何を記憶して、何を忘れてしまったかを自覚することは非常に難しいです。そもそも自分が必要だと感じている記憶と脳が必要だと感じている記憶には若干の差違があります。
特に勉強して覚えたことというのは「勉強したことは忘れたくない!」とどれだけ思っていても、脳がその記憶の重要性を認識しなければ忘れていってしまいます。ですので、勉強したことを思い出すための勉強というのはとても重要なのです。
では思い出すための勉強とは具体的にどのような勉強が適しているのか?特に効果的なのは
・勉強したことの復習
・短時間で行う
・暗記<理解
・思い出す勉強アイテムの作成
の4つだと言われています。これらについてもう少し詳しくお話ししていきます。
1)復習は必須
人の記憶というのは、五感や感情と強く結びつきがあるほど記憶に残りやすいと言われています。そのため、ただ勉強しただけのものというのは、意外と頭に残りにくく、時間が空くと忘れてしまっていることも珍しくありません。
そのため、勉強したことを忘れていないかどうかを確認するための復習は絶対に欠かせません。この復習を行うことで、自分がまだ覚えていたことや忘れたことを確認することができます。
ただし、毎日復習を繰り返していると、新しいことを覚える時間が少なくなってしまうため、ある程度の期間をおいて繰り返すことが大切。例えば週に1回とか、そのくらいの期間をおいて取り組んだ方が忘れたものと覚えていたものをハッキリさせやすいでしょう。
2)時間はかけない
思い出すための勉強とは、過去に一度忘れた記憶を取り戻すためのものです。つまり1回同じところを勉強しているわけですから、特別丁寧に勉強をする必要はありません。
ちょっとしたきっかけで忘れていたものを思い出すことだってあります。ですので『寝る前の10分間だけ』とか『余った5分間で』という感じで、しっかり時間をかけずに行うようにしましょう。
3)理解することを意識する
忘れたものを思い出す時、ただ「あ~これだったのか!」で済ましたら、また忘れてしまう可能性があります。せっかく思い出すのですから、この時により忘れにくい記憶として脳に留めておくことが必要です。
そこでおすすめなのが暗記したものを“理解する”こと。例えば忘れてしまった単語を改めて辞書で引いてみたり、人名などであればその人がどんなことをしたのか、誰とつながりがあるのか・・・といった背景まで勉強してみたり。
こうすることで、思い出した記憶の印象はより強くなり、忘れにくくなります。せっかく勉強するのですから、何か新しい知識を入れるよう工夫してみてください。
4)単語帳を用意しておく
人によって忘れにくいものと忘れやすいものというのはある程度傾向が出てきます。そこで、単語帳などを作って忘れやすいものや、忘れてしまったものをそこに書いていくといいでしょう。
そうすることで、今度思い出すための勉強をする時、その単語帳1冊で事が足りるようになります。しっかり頭に残っているものは週1に行う復習で、すぐにわすれがちなものは単語帳でこまめに勉強することで、試験に必要な知識をもれなくインプットできます。
まとめ
どれだけ素晴らしい勉強法や暗記法を用いても、人間である以上必ず忘れてしまいます。これはその人の才能や努力といったものではなく人間としての性(さが)なのでどうすることもできません。
だからこそ、忘れたものを思い出すための勉強というのも必要になってくるのです。これをしっかり行うだけでも、試験に必要な知識や情報をきちんと頭にインプットすることができるでしょう。
また、覚えたことをチェックするための勉強は、自身の脳の情報整理の意味も込められています。きちんと頭の記憶を整理し、常に出し入れが自由な状態で挑まないと試験で良い結果を出すことはできませんから、定期的に勉強したことを思い出すための時間を取って下さい。